映画『二百三高地』(日本:1980)

<解説>
明治37年2月から38年7月までの約1年半、日本とロシアとの間で、朝鮮と満州の支配権をめぐって起きた〈日露戦争〉。その勝敗を分けたのは、乃木大将率いる第七師団等が戦った“二百三高地”をめぐる攻防戦だった。この肉弾戦による日本軍の死傷者は一万人近くに上り、多くの犠牲者と引き換えに日本軍は勝利をおさめたのである。
 本作品は、“二百三高地”という激戦地で絶望的な戦いを強いられた日本兵士たちの戦争への怒りや、兵士間に芽生えた友情を描破すると同時に、日露戦争という歴史的事実に関わった人々の生き方を通して、米と絹しか産しない総人口四千六百万人の弱小民族であった日本が大国ロシアに何故戦いを挑み、如何に戦ったのかを壮大なスケールで再現する。
 キャストは、乃木大将に仲代達矢、児玉源太郎に丹波哲郎、明治天皇に三船敏郎、伊藤博文に森繁久彌が扮する他、あおい輝彦、夏目雅子ら豪華演技陣が結集。
 監督は、キレのある演出に定評のある舛田利雄。脚本に名作「仁義なき戦い」シリーズの笠原和夫を迎えて、3年の歳月と15億の巨費を投じて作られた感動の超大作。さだまさしが歌う主題歌“防人の詩”とともに、現代日本のルーツといわれる明治の歴史が鮮やかに甦る。
(公式サイト解説より)
<スタッフ>
企画:幸田清、天尾完次、太田浩児、瀬戸恒雄
脚本:笠原和夫
撮影:飯村雅彦
音楽監督・指揮:山本直純
監督:舛田利雄

<キャスト>
仲代達矢、あおい輝彦、新沼謙治、湯原昌幸、佐藤允、永島敏行、天知茂、丹波哲郎、愛川欽也、夏目雅子、野際陽子、松尾嘉代、神山繁、若林豪、石橋雅史、長谷川明男、森繁久彌、三船敏郎、他


<感想>
東映が製作期間3年、総製作費15億円を投じて製作した歴史的大作。

存在は知っていたが、youtubeの東映公式チャンネルが登録者20万人突破を記念し無料公開していたため、良い機会だと思い鑑賞した。余談だが最初は8分おきに広告が入り最悪だったが、後半1時間くらいは全く入らなかったので、向こうもいろいろ考えて入れているようだった。まあ無償のものに文句言っちゃいけねぇな…

最初からロシア軍の動向を探る情報将校の処刑シーンから始まり、圧を感じるタイトルバックで当時の情勢の解説が入る。日本史知識がありこの辺りは字幕なしでも難なく見ることが出来た。当時の観客も大丈夫だったんだろうか。そしてほんへでは80年代を代表する昭和の銀幕スター達が勢揃いする閣議にも圧を感じる。

明治帝が三船敏郎、自ら近衛部隊率いて旅順攻略しそうな凄味があるわね。

転じて市井の人々が開戦に伴い動員されていく。ロシアによるウクライナ侵攻下で観るとリアルである。

あおい輝彦演じる小学校教員が「先生はこう見えて予備少尉だから」と誇っており、自分も動員に備えて予備役将校過程に行っておけばよかったと思った(そんなものは現行憲法下では存在しない)

神田のニコライ堂らしき場所で信者に正教会の神父が人間愛を説いており、内村鑑三の非戦論や戦時下にコミンテルンで訪欧しロシア人と固い握手を交わした片山潜などを思い出した。

日本史知識がいい具合に刺激される作りですね…

あおい輝彦率いる小隊が上陸し、攻撃が始まると地獄のような戦場が出現し、先ほどまでの知的好奇心が雲散霧消。総攻撃でどんどん兵士がやられていき辛い。あんなにやさしかった小学校教員の目から光が消えていく…

3時間の超大作なので1時間30分のところにインターミッションがあるが、激しい戦闘で部隊の9割が損耗し、少尉が茫然自失で歩くシーンでさだまさしの「防人の詩」が鮮烈な歌詞字幕と共に表示されるので「エンディング重たい…」と誤解した。さだまさし、この激重歌を若干28歳で作ってたのですごいと思う。

作中唯一の癒しパート、徴兵された豆腐屋がラッパ手になり、豆腐屋の音色を響かせると上官が「燗で(湯豆腐を)やりたいなぁ…」としみじみ言うシーンだけだった。。なお豆腐屋は数少ない生還者になるのも数少ない救いである。

あとはただひたすらに重く、乃木閣下も子息を次々と亡くし、自宅には暴徒が押し寄せてえぐかった。

満州軍の児玉源太郎がやってきて、味方を犠牲にしてでも28サンチ砲で要塞を潰せばええやん、って方針転換してようやく二百三高地は陥落し、長い長い戦闘が終結するのだった。(これは史実ではないらしいが…)

少尉夫人から中尉夫人になった夏目雅子がロシアという文字を書けず慟哭するシーンは涙なしには見られないが、籍を入れなくてその後の軍人恩給その他は大丈夫だったろうか…という世俗の心配をしてしまった。


大本営−第三軍−旅順の艦船を潰してほしい海軍vs弾薬が足りねえ陸軍、の雲の上のやり取りのなか前線でバタバタ消耗品の兵たちが死んでいくの、日本のいちばん長い日にも通奏していましたね。

見ごたえのあるこういう作品、この先撮影される気がしないのでアメリカみたいなフィルム登録簿に入れておいて欲しい。

しかしこれを見て戦争賛美だと批判した左派系新聞、どこをどう見たら賛美に見えたんだろうか…。党派性でしか映画を語れなかった時代の哀しみであろう。。
当初は威勢よく「予備将校になろう」とか言っていた自分も観終えたころには「好青年あおい輝彦を返してくれ…」「戦争さえなければ夏目雅子と幸せな家庭を築いたろうに…」と思ってたからな。


おわり

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