響け!ユーフォニアム 最終回に寄せて

京都アニメーション制作のアニメーション作品である「響け!ユーフォニアム」が2024年(令和6年)6月30日の放送回をもっていよいよ最終回を迎えた。

初回放送は2015年4月8日なので、足掛け9年、久美子ちゃんが高校1年生として北宇治高校に入学してから部長に就任し卒業するまでの3年間を描いたことになる。

2010年以降、深夜アニメ(と称される児童向けでないもの)を観始めた自分にとって、ブルーレイを予約購入したり聖地巡礼に赴いたり原作を購入するほど好きになった作品はこれが初めてである。
今風の表現をすれば推しキャラである田中あすか先輩に関する妄想をHP上に書き連ね、関連書籍を購入し、タイアップ企画をしているヤマハに足を運び指揮者体験をする、劇場での複数回鑑賞に赴くなど、これまでの自己の行動パターンに変容をもたらしたのも初めてのことであった。

観始めた最初は、黄前久美子、加藤葉月、川島緑輝、高坂麗奈の4人の日常系アニメ化だと思っていた。
キービジュアルが4人そろった日常物という雰囲気で、OPも同じ京アニの「けいおん!」らしさが感じられたからである。
先に原作を読んでいればそんなことは無いと気付けたのかもしれないが。

蓋を開けてみれば主人公4人が入った北宇治高校が、多数決主義者とさえ思える粘着イケメン悪魔こと滝先生の指導の下、仲良しクラブから全国大会“ゴールド”金賞を目指す戦闘集団に脱皮していく王道の青春スポコンアニメであった。
吹奏楽部は下手な運動部よりも運動部らしいというのをこの作品で初めて知ることが出来た。
女性が多くても不自然にならない舞台装置=『高校の吹奏楽部』という点も相まってか、一般人にも受容されNHKでの再放送など深夜アニメの枠を次第に超えていったように思える。
ちょうど各種配信サービスがスタートし放送時間での区別が無くなってきた時代背景もあるのかもしれない。
この『高校吹奏楽部』という朝日新聞や日本放送協会が見逃すはずがない題材だったことは非常に大きく、最終的にはNHKアニメに昇格してしまい、第3期は教育テレビで毎週日曜午後5時から放映されたのだった。
ゆえにお風呂回が端折られ胸のサイズの話が控えめな表現になったのはご愛敬か。

かくいう自分も、このアニメはサックスを習い始めた親にも勧め、(1期6話程度まで見てくれた)、実家でも引け目を感じずNHK教育での劇場版再放送を鑑賞するなどし、親との音楽トークにも資することになったから、有難いことである。

原作は使いまわしの表現もありこなれていないと感じる部分もあるのだが、京アニの脚本と監督によりそれが程良く調理されている。

「アニメは花田と石原による二次創作」というファンの感想もあるほどだが(脚本家の花田十輝氏と監督の石原立也氏の事を評している)、最終楽章たる第3クールではその二人の手練手管が遺憾なく発揮され、原作と違う経路を黄前部長は歩むことになったのだった。

「努力は報われる、ただしそれは本人が望む形とは限らない」というのが原作者の一貫した姿勢だそうだが、それがアニメでこのように昇華されるとは武田綾乃氏も望外の喜びであっただろうことは想像に難くない。

折悪しく、小学館と日本テレビがドラマの実写化に当たり原作の取り扱いで齟齬をきたした末、原作者の自死を招いた事件が半年ほど前にあった影響か、このアニメでの原作改変は一般紙のネット版でも報じられるほどになったが、ファンの多くはこの改変を受け入れ、感動の涙を流すことになったのだった。

またこの作品を制作した京都アニメーション自体が、2019年7月18日に卑劣なテロ行為の犠牲となったことも、この作品を語るうえで外すことは出来ないだろう。

36人の尊い命が失われたこの事件では、キャラクターデザインを担当した池田晶子氏をはじめとして「響け!ユーフォニアム」の製作に携わっていた多くの方々が無念にも犠牲になった。
全く落ち度の無い、観る人に希望を与える作品を生み出している善良な人々がなぜこのような仕打ちを受けなければならないのか、神も仏もいないのか、という事件当時の衝撃は今も忘れることが出来ない。
京都アニメーションの作品たちが好きだっただけに、今後京アニの作品を見ると悲しみも去来することになる、そのこと自体が悔しくてたまらないのである。

しかしここは悲しんでばかりいるべきではないだろう。かけがえのない人材と社屋を失ってもなお、京都アニメーションはその意思を守り、受け継ぎ、復活を遂げ、丁寧に時間をかけて「響け!ユーフォニアム」という作品の完結まで漕ぎ着けたのであるから。

今回放送の最終回では、北宇治高校が念願の全国大会金賞を受賞する場面があり、客席が映し出されるが、そこには亡くなられた方も含めた京アニスタッフの姿が織り込まれていたということである。
主役を演じた黒沢ともよ氏の「絵の中に、みんなちゃんといた。キャラクターもクリエイターもみんないた!ああ、嬉しい。空の上まで響いてるかなぁ 届け〜」というSNSの呟きに、この作品にかかわった関係者の万感が込められているように思えた。

テレビシリーズとしてはこれで終わりだが、京都アニメーションのこと、劇場版が控えていると思うとまだ楽しみが残っていて、それを糧に日々を送ることが出来そうである。

折に触れて観返す作品、というものがまた一つ増えた。劇場版を観終えたらまたここに想いを書き足すことだろう。




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